仕事は決断の連続です。社長から一般社員まで、仕事をしていれば内容の差こそあれども、何かしらの決断を迫られます。しかし、正確な判断を下すためには、常日頃から状況を把握する力、つまり、観察力を磨いておかなければなりません。よって、観察力は仕事をする上で必要不可欠な力と言えるでしょう。
ただ、一口に観察力と言ってもいくつかの種類があり、種類によっては企業から評価されない観察力も存在します。
この記事では、企業が求めている観察力を解説するとともに、自己PRにおいて、自分の観察力をアピールするときのポイントを紹介します。
企業が求めている「観察力」とは何か
「観察力」とは、言い換えると「状況把握能力」のことを指します。例えば、商談の最中に、相手が身を乗り出してくれば、興味を持っていると判断して説明を畳み掛けるでしょう。逆に、相手がどこか上の空であれば、興味を引くために一呼吸おくはずです。
このように、時々刻々と変化する情報を常に仕入れなければ、その後に続く行動が適切なものになりません。まずは、企業が就活生に対して求めている「観察力」について解説します。
観察力には3つの種類がある
実は、一口に観察力と言っても、その観察する対象が何であるかによって、大きく3つの種類に分けられます。ここでは3つの観察力をそれぞれ紹介するとともに、それぞれの観察力が求められる仕事や業種について解説します。
①状況観察力
一般に仕事で言われる観察力とは、周囲の状況を見極める能力である「状況観察力」を指します。これは空気を読む力とも言い換えられ、外向きの観察力です。
自分の置かれている状況を正確にとらえられれば、その後の自分の行動も変化します。また、イレギュラーな状況にも対応できるので、企業からは非常に重宝がられる観察力です。
この観察力は、事務や経理など、どのような業種・職種であっても必要と言えるでしょう。なかでもマーケターのように市場動向や経済状況など、1つの情報を知っているか否かで成否が分かれるような仕事では、常に磨き続けなければならない力です。
②自己観察力
外に向く状況観察力とは異なり、自己観察力は内向き、自分の状況を客観的に観察する力です。
仕事をしていれば、理不尽なことや我慢できないことに出会うことがありますが、このとき自己観察力に長けていれば、怒りや不満をセルフコントロールできるため、物事を内省的に捉えることが可能です。また、ストレスに対して強い耐性を持つため、少しの事では諦めたりせず、高い業務遂行能力を持つ人材でもあります。
この観察力は、自分を常にコントロールすることが求められる職種で非常に有益な能力です。例えば、技術職などが最たる例でしょう。常に自分の腕前を研鑽し続けなければならない技術職では、感情の抑制だけではなく、自分の技術の程度の把握も求められます。
③人間観察力
人間観察力は、読んで字のごとく「人間」、つまりは他人を観察する能力です。人間観察力に長けている人は他人とのトラブルが非常に少なく、常に誰かの傍にいます。それは相手の気持ちや考えを推し量ることで、相手の嫌がることを避けるだけではなく、相手の心情に寄り添ったアドバイスができるからではないでしょうか。
このように、人間観察力に長けた人は相手の気持ちを知る職業、例えば、心理カウンセラーや相談員などが向いています。相手の様子をつぶさに観察することで、相手自身も知らなかった気持ちに気が付かせることができるかもしれません。
評価される「観察力」と評価されない「観察力」
3つの観察力のなかでも、企業は「状況観察力」と「自己観察力」を持つ人材を高く評価しています。
この2つの観察力のうち、特に「状況観察力」は、イレギュラーに対応できる柔軟性にもつながるため、仕事においては不可欠な力と言えるでしょう。また、「自己観察力」も仕事をする上でセルフコントロールには欠かせない要素です。
これら2つの観察力は能動的に自分から動かなければ、発揮することができません。自分から仕事が来ることを待つ受け身の体勢よりも、積極的に行動できる人間の方に企業は高い評価を与えます。その意味では、相手の人間がいないと発揮できない受動的な力である「人間観察力」は、企業側の評価としては一歩劣るかもしれません。
しかし、人間観察力は、今後部下を持った時には非常に役に立つ力と言えます。部下それぞれに適切なアドバイスをするには、常に部下が何を考え何に悩んでいるのかを観察しておかねばなりません。その意味では、人間観察力に長けていることは、マネジメント能力につながり、キャリアアップのときには必ず求められる力です。自分に見合った観察力を最大限にアピールしていきましょう。
観察力のアピールが効果的な職種
営業職
営業職では、観察力は効果的なアピールに繋がります。観察力よりもコミュニケーション能力や競争心などの方がアピールに繋がるのではないかと思う人もいるかもしれませんが、観察力も営業職において重要なスキルです。
営業職は相手のニーズや抱える課題を汲み取り、自社の商品やサービスを提案します。そのため、観察力を活かし、相手の言動や対応、変化などからニーズを理解した上で商材の提案をすることができます。
観察力を活用し、相手に合わせて柔軟なコミュニケーションを取ることができれば、営業マンとしての活躍が期待できるでしょう。
医療関係職
介護士や看護師、医師など医療関係の職業では観察力は必須です。患者さんの少しの変化でも、その背景に大きな病気や怪我が隠れている場合もあります。
医療関係職は人の命と隣り合わせな仕事であるからこそ、観察力は絶対的に必要なスキルです。
マーケター職
マーケターは、世の中のニーズを理解し分析した上で、新商品を売り出す施策や既存商品の販売アプローチの改善などを繰り返し行います。
ニーズを理解するには、客観的な観察力が求められます。社会や市場の動向を見て、多くの人に売れる方法を考えなければなりません。
教育職
教育職では、生徒ひとりひとりと真摯に向き合う姿勢が大切であるため、観察力があることは大きな強みになります。
観察力があれば、数多くの生徒がいる中でも生徒のちょっとした変化にも気づくことができます。生徒の変化に気づけることで、大きな問題に発展することを防ぐことにも繋がります。
教育関係のスキルや経験はもちろんですが、観察力を持っていることはプラスに評価されやすいため、積極的にアピールするようにしましょう。
接客職
接客業においても観察力は必要不可欠な能力です。接客業では、お客様が何を求めているのかを咄嗟に判断し、対応する必要があります。
例えば、飲食では観察力があることで空いているグラスやお皿、物を落としたことなど細かなことにも咄嗟に気づくことができます。また、観察力があるということは、よく人のことを見ていることにもなるため、常連さんなども記憶しやすくなります。
限られた短い時間の中で、より良いサービスを提供するためにも接客職において観察力は身につけておきたいスキルです。
観察力をアピールするときの4つのポイント
観察力は仕事をする上で重要な力であり、その力を自己PRすることは企業にも好印象です。しかし、上手に自己PRしないと、「観察力」のアピールは企業から逆に不信感や不快感を持たれてしまいます。ここからは、観察力を企業に自分の強みとしてアピールするときのポイントについて解説します。
自分の強みとなる観察力を1つに絞る
前述のように、観察力には3つの種類があり、それぞれ発揮できる場所や対象が異なります。
特に状況観察力と自己観察力は、お互いに外向きと内向きの逆向きの観察力です。状況観察力は「行動力」や「決断力」に結びつきますが、自己観察力は「忍耐力」や「自己分析」と大いに異なる力です。
観察力をアピールするときは、自分がどちらの観察力に長けているのかを明確にして自己PRに臨みましょう。全く逆向きの力であるため、欲張ってどちらもアピールしていると、結局、焦点がぼやけてしまい面接官に伝わらなくなってしまいます。
また、「人間観察力」のアピールは就活では避けた方が無難でしょう。相手がいないと発揮できない力である受動的な力であるため、企業側に「消極的である」という印象を与えてしまう可能性があります。
加えて、再現性の低さも問題です。同じ種類の悩みであっても、相手によって解決策は全く変わります。成功例を一例だけ挙げても、その次も上手くいくという保証はどこにもありません。常に仕事で使えるという根拠がないため、企業としても評価が困難です。
洞察力と混同しない
観察力に似た能力に洞察力があります。どちらも相手の状況を察知する能力であるため、しばしば混同されて使われますが、観察力は表面的な情報収集能力であり、洞察力は物事の本質を見抜く力とされています。
どちらも重要な能力であり、どちらが優れているかが問題ではありません。ただ、自己PRにおいて、観察力と洞察力を混同すると、結局、自分の強みがぶれてしまいます。
もし、自分の強みと言える部分が「相手の状況を察し、そこから推論を組み立てる」類の能力であるならば、それは洞察力に分類されます。「強みは観察力です」と文章を書き始めて、「適切な予測ができる」という洞察力の文章で自己PRに終始するのは、企業としては評価できません。
自己PRに入る前に、自分の力がどちらに属するものなのかを明確にしておきましょう。
完璧主義に思われることは逆効果
観察力は適切な行動をするためにも、欠かせない能力です。得られた情報が多いほど、その後に続く行動にも説得力が与えられます。
しかし、仕事に与えられる時間は無限ではないため、どこかで情報収集を終え次の行動に移らなければならない場面は、仕事をしていれば常に出会うでしょう。そのなかで、細かく時間をかけて状況を観察することは、決して企業にとって望ましいとは限りません。
仕事は正確さも重要ですが、効率よく遂行することも求められます。情報を集めることばかり意識して、その情報を使うことができなければ意味がありません。
また、会社は組織です。この組織には老若男女、考え方やこれまでの生き方が全く異なる人が集まっています。万人が納得する解答を出すのは非常に難しいため、どうしても解答には何かしらの粗が出てしまいます。
その粗を見つけて指摘しすぎる人は、企業にとって足かせになってしまいます。完璧であることを求めるスタンスは評価されるべきですが、それも度がすぎれば「組織に向かない」と判断されてしまうので、注意が必要です。
企業が見ているのは観察した「先」
企業は「観察力」があることを自己PRする人材に対して、もう一歩踏み込んだものを見ています。例えば、「〇〇さんが困っている」という、誰かが困難に陥るシーンは仕事だけではなく、日常生活でも目にする場面でしょう。この状況を観察して「あ、困っているな」で終わるようでは、その「観察力」は全く意味を持ちません。「困っている」だから、自分の状況を観察して助けられるか、できないなら助けられる人はいないか、という次の「行動」ができる人材を企業は求めています。
あくまでも「観察力」は「見る力」です。これまで観察した上で何をしてきたのか、また何ができるのか、という決断力や行動力につながっていないものを企業は評価しません。仕事をする上でも、観察した後の行動は重要になるので、単に「見ていました」だけになるアピールは避けましょう。
観察力を自己PRする例文
ここからは3つの観察力をテーマにした自己PRの例文を紹介します。3つある観察力は、それぞれ発揮される場面が異なります。文章を書くときは、自分のエピソードがどの観察力が発揮された場面なのかを理解しておくことが重要です。同時に、観察力を発揮したことで何ができることが強みなのかまで示すと、エピソードの説得力も強くなります。
状況観察力をテーマにした例文1
私の長所は、周囲の状況を確認し、適切に行動できることです。
私は、大学1年次から同じ喫茶店でアルバイトをしています。多くの子連れの親子が連れ立って訪れるお店ですが、お母さんたちが話に夢中になると、子どもたちが退屈そうにしている場面を何度も目にしました。
そこで私は、退屈している子どもたちに積極的に話しかけ、コミュニケーションを取るよう心がけました。子どもと会話する時間を多く持つことで、保護者の方も自由時間が確保できるだけではなく、お店にとっても子どもの動きを制限することで、店内のトラブル防止につながりました。
貴社においても、このような状況を把握し、最適な行動を取ることで、お客様のニーズに応えていきたいと考えています。そして、その上で、どのような課題があるのかを考え、それに対して適切な対応をすることで、より良いサービスを提供していきたいです。(400字以内)
本来、喫茶店の業務に「子供を見る」ことは含まれません。しかし、子どもが退屈しているという状況から、保護者の「子どもを見てほしい」というニーズと、子どもの「遊びたい」というニーズを捉えたことが示されています。また、これらのニーズに応えた結果、どのようなプラスが店にあったのかまで示すことで、自分の観察力と、その後の行動の適切さが際立ちます。
状況観察力をテーマにした例文2
私の強みは、常に周囲の状況を観察する状況観察力です。特に、その力が発揮できたのは野球部のキャプテンとしての経験です。
大学3年次にキャプテンに任命されましたが、当時の部員は100名以上おり、1人で全ての部員の様子を把握することは困難な状況でした。そこで私は、各学年に副キャプテンを置き、自分は前に出て全員を引っ張る代わりに、細やかな人間関係の調整や連絡などは副キャプテンに任せることにしました。
結果、部の信条を全員に徹底することができただけではなく、部員の様子を細やかなところまで把握できるようになりました。そして、最後の大会まで全員が欠けることなく参加できました。
貴社においても、このような「状況観察力」を活かして、常にベストな行動ができるように心掛け、一層の成長を目指します。(350字以内)
状況観察力に長けていると、その状況が「自分の手に負えるか」の判断も可能になります。そして、そこで取るべき適切な行動の中には「自分がしない」ということも含まれます。特に、新入社員の場合は、自分の能力の限界を見極め、それを上げていくために「どうするか」が求められます。
この場合は、「100人の部員を細かく見れない」から、「副キャプテン」を置くことでカバー、自分の役割を果たすことに終始したことで得られた結果が示されています。
自己観察力をテーマにした例文1
私の長所は、自分を深く分析し、自己実現に向けて努力できる点です。
私は大学時代、所属していたテニス部で、全国大会出場という目標を掲げ、その目標に向かって努力し続けました。ただ、私は飽きっぽいという欠点があります。この欠点を克服しないことには目標達成は成し遂げられないと思い、コーチや監督とも話し合いながら、毎週課題を設定し、達成に向けた練習方法と成果を都度確認することで、モチベーションを維持しながら継続して取り組むことができました。結果、地方大会で入賞の成績を残すことができました。
全国大会出場は叶いませんでしたが、この経験から得た「欠点も飲み込んで、目標達成に向けて自ら行動する力」を活かして、貴社でも様々な業務に取り組みたいと考えています。そしてお客様のニーズに応えるべく日々精進していきます。(350字以内)
自己観察力は自分の長所だけに目を向けるものではありません。人ならば誰しもが持つ欠点も重要なポイントです。この文章では「飽きっぽい」という欠点を自覚した上での行動を取ったことが示されています。弱点や欠点は、克服できるものばかりではありません。ただ、それを把握している人と全く理解していない人では、取っている行動も異なります。弱味が発見できることも自己観察力の良さと言えるでしょう。
自己観察力をテーマにした例文2
私の長所は、自己観察力であり、自分の行動を修正し続けられることです。
大学時代、私はデータ整理のアルバイトをしていました。日々、膨大なデータが送られてくる中で、規定時間内に終わらせなければならないプレッシャーから、ミスが増加。その修正に時間が取られ、さらにプレッシャーが増すという悪循環に陥っていました。
そこで私は自分の手順を見直し、ミスが出やすい箇所、時間がかかっている作業を洗い出し、社員に相談し、アドバイスを元に改善しました。またバイトメンバーにも相談し、効率的に進めている仲間がどう対応しているのかを観察し、自分のやり方に反映していきました。
結果、規定時間内でこれまでの倍以上のデータをミスなく整理することができるようになりました。
この経験を活かし、貴社でも様々な業務に柔軟に取り組み、お客様の課題解決に貢献していきたいと考えています。(400字以内)
自己観察力は内省的な力です。自分の欠点だけではなく、自身の行動の改善にも役に立つ力です。今回の例文であれば、自分が失敗しやすい箇所、時間がかかっている作業を洗い出し、それを改善するために行動したことが示されています。また、どうしても自己観察力は自己完結するため、他人が出てくるエピソードになりにくい傾向があります。ほかの人も巻き込んでの改善は、チームワークのアピールにもつながります。
人間観察力をテーマにした例文1
私の長所は、他人の悩みに寄り添うことができることです。
私は大学入学時から個別指導塾でアルバイトをしていますが、学校や家庭での悩みから、勉強に身が入らない子も多くいます。
そこで、まずは心を開いてもらえるよう子どもの顔色や様子を観察し、子どもの求めていることを的確に把握することに努めました。その上で、1人1人に合わせた指導方法を考え、コミュニケーションを意識した授業へ改善しました。
コミュニケーションを増やしたことで悩みを打ち明けてくれる生徒も増え、その結果、生徒たちから信頼を得ることができ、平均して70点以上の成績アップを図ることができました。
貴社においても、お客様に親身になって対応することで、潜在的なニーズを引き出し、より良いサービスを提供したいと考えています。(350字以内)
人間観察力によって、相手の悩みを解決にまで導ける点は非常に評価されるでしょう。相手の気持ちや考えを推し量る人間観察力は、接する人が多いほど、余計なトラブルを回避するためにも、仕事で求められる力と言えます。ただ、人間観察力は、どうしても相手ありきの文章になるため、読む相手に受け身な印象を与えてしまう点には注意が必要です。
人間観察力をテーマにした例文2
私の長所は、人間観察力です。私は大学では陸上部に所属し、マネージャーとして活動していました。そのなかで私は、選手たちの体調管理や練習メニューの調整などの業務のほかに、悩んでいる選手たちのコーチングも担当していました。相談の場では常に相手を観察し、選手たちの言葉に耳を傾け、彼らが目標達成できるようにサポートしてきました。
その結果、多くの選手たちが自己ベストを更新、昨年度の大会ではのべ25人の上位入賞者を出すことができました。
貴社においても、お客様に親身になって対応することで、潜在的なニーズを引き出し、より良いサービスを提供したいと考えています。(300字以内)
人間観察力は、マネジメント能力につながる力です。この例文では人の様子を敏感に察知し、問題解決に向けたコーチングの実例を挙げることで、マネジメント能力の高さをアピールしています。
また、内容をコンパクトにまとめている点も高評価です。短すぎるのは問題外ですが、言いたい事を簡潔に伝えることも自己㏚では重要です。文章を書くときは1つのテーマに対して、300字程度を目安にしておきましょう。
正しく意味を理解して観察力を自己PRでアピールしよう!
3つある観察力は、それぞれ仕事で役立つ場所やタイミングが異なります。使われ方が全く異なる3つの観察力の中で、自分の強みとなる観察力がどれなのか明確にすると、企業にも伝わりやすくなります。
また、仕事でどのように活かせるのかまで示すことで、企業も入社後の働き方のイメージがしやすくなります。自分の持つ「観察力」を理解して、選考を突破しましょう。