自己PRでアピールできる能力の中で、どの職種にも対応可能なものの一つが「傾聴力」です。人の話をしっかり聞くことができるだけでなく、その話を聞いたことでどのような行動を起こしたのかに、ひとりひとりの考え方や個性の違いが現れます。
しかし、使いやすいために自己PRで使われることが多いのも事実です。他の応募者のESに埋もれないためにも、エピソードを基にしたプラスアルファの強みをアピールすることを心がけましょう。
目次
企業が学生の傾聴力を評価する理由
相手のニーズを引き出せるから
傾聴力のある学生は、言葉面だけでは捉えられない相手の隠れたニーズを引き出せるのが特徴です。
社会に出ると、自分の本心をそのままストレートに言葉にしてくれる人ばかりではありません。本当に言いたいことは言わずに曖昧な言い方をする人や、自分で自分のニーズを把握できていない人もいます。
傾聴力のある人材はそのような人に対し、丁寧に質問を重ねることで、問題の核心や相手が本質的に求めていることを会話の中から探ることができます。
社内外の人と良好な関係を築けるから
自分の話を否定せずに受け止めてくれる傾聴の姿勢は、相手と良好な人間関係を構築する上でも役に立ちます。本心では「それは違うのでは?」と感じたとしても、まずは共感や理解を示すことで、相手との信頼が築かれ、本音を引き出しやすくなります。
傾聴力のある人材は取引先や顧客から信頼を得やすいので、信頼が何よりも重要となる業界や営業・コンサルティングなどの職種では有利といえます。また、傾聴力の高い人材がいるとチームワークが円滑に進むので、採用担当者から好評価を得やすい傾向にあります。
どの職種でも活かせるから
傾聴力は、対人コミュニケーションの上で非常に重要な要素です。仕事をする上で、人と全く関わらないことはほとんどなく、社内外の人と良好な関係を保つことが求められます。
また、「人の話をしっかり聞ける」ことで「理解力がある」、「人の話を聞き洩らすことが少ない」などの印象も与えます。人の話を正しく理解して仕事でのミスをなくすことは社会人としての基本であり、どの業種・職種でも必要不可欠でしょう。
傾聴力を効果的に伝える構成
- 傾聴力が強みであることを述べる
- 傾聴力を発揮した経験
- 傾聴した成果・結果
- 傾聴力をどう仕事に生かすか
➀傾聴力が強みであることを述べる
まずは結論となる「傾聴力が自身の強みである」ことを冒頭で述べましょう。結論を先に示すことで、話の内容が明確になり、読み手も理解しやすくなります。
また、文章はできるだけ簡潔に2~3文でまとめます。短く強調することで、読み手にインパクトの残る文章にすることができます。「結論は最後」という癖がついている人も、ESでは最初に書くように注意しましょう。
➁傾聴力を発揮した経験
次にその裏付けとなる具体的な体験談を書いていきます。部活やボランティアなど学生時代の体験から、傾聴力を発揮したエピソードを考えましょう。自分だけの経験を伝えることで、「自分にしか書けない」自己PRが完成します。
この時、できるだけ具体的に、読み手が状況をイメージできるように書きましょう。文章で状況を伝えるのは難しいですが、固有名詞や数字など、人によって解釈に違いが出ない言葉を使うのがコツです。
➂傾聴した成果・結果
エピソードを紹介して終わりでなく、傾聴力を発揮したことによって得られた成果や結果も踏まえることが大切です。自分なりに活動の目的や目標を定義し、それを達成するために傾聴力がどう影響したのかを説明しましょう。
ここでも、できるだけ具体的に書くことを心がけます。客観的に成果・結果を捉えるために、数字で表したり、周りの人(友人・家族・先輩・後輩など)に成果・結果への評価を聞いてみるのも良いでしょう。
➃傾聴力をどう仕事に生かすか
最後に、応募企業での仕事で傾聴力がどう役立つのかを伝えます。この際、応募企業の特徴や求める人物像に合うように、自分の理想の将来像を伝えましょう。
ひとえに「傾聴力」と言っても、会社での活かし方は人それぞれであり、伝え方も様々に考えられます。言い換えを用いることで、多様な場面で活用可能な能力であることをアピールしましょう。
自己PRの締めくくりの文章ということで、採用担当者にあなたの魅力を印象付け、採用するメリットを感じてもらえるよう意識して書くのがポイントです。
傾聴力の自己PR例文
部活
私は大学の新聞部での経験を通じて、傾聴力を磨きました。
新聞部の編集会議中にメンバーのひとりが発表した特集記事のアイデアに対し、他のメンバーから異議が唱えられ、ボツになりかけたことがありました。そのアイデアは現在の社会状況を踏まえていて話題性があり、他の学校や過去の記事では取り上げられていないユニークなものでしたが、提案の根拠が曖昧で記事の意図が十分に伝わっていないことが原因でした。
しかし、私はこのテーマはこのタイミングでこそ記事にする価値があると考え、提案者に対して記事の狙いや対象読者層、参照した統計データ、競合記事との違いなどを注意深く質問し、そのアイデアの根拠を詳しく説明してもらいました。
すると、最初は反対していた他のメンバーからも賛同を得ることができ、特集記事のテーマとして採用されることになりました。結果として、記事はより充実したものとなり、時事性と独自性が評価されて、その年の全国新聞部コンクールで最優秀賞受賞を果たすことができました。
貴社ではこの傾聴力を情報収集や円滑なチームワークのサポートに生かし、質の高い記事の制作に貢献していきたいと考えております。(500字以内)
傾聴力が新聞の品質向上に貢献したエピソードです。相手の意見を否定するだけで終わらず、質問によって不足している情報を引き出すことで「特集記事のテーマとして採用」と「コンクールでの受賞」という成果を出した事例といえます。
他の学生と差別化するには、事実に即したエピソードの中に自分の喜怒哀楽の感情を混じえ、採用担当者が共感できるようなストーリー性も意識するとよいでしょう。
ゼミ
私は大学のゼミで傾聴力の重要性を学びました。
東日本大震災の被災地復興研究に関するゼミの一環で現地に赴いた際、震災から10年以上が過ぎた今でも様々な問題が山積していることがわかりました。無力な大学生である私にできる助言などひとつもないという厳しい現実にも直面しました。
そこで私は問題を抱えている人に対して無理に解決策を提示するのではなく、被災者一人ひとりとの会話を通じて現在の悩みや必要としていることに注意深く耳を傾けることに注力しました。その結果、震災後の転居によって近所の人と離れ離れになり、それまで築いた地域の人間関係の輪がなくなってしまったことで寂しさを抱えている人が多いと判明しました。
今の自分にできることとして、被災地復興の現状を一人でも多くの人に知ってもらうために現地レポートをまとめ、大学のホームページに掲載してもらいました。それを見た地元のNPO団体から連絡があり、震災前に住んでいた町ごとに元住人が集まる官学連携イベントを開催できることになりました。
入社後はこの経験で培った傾聴力と問題発見能力、問題解決能力を活かし、困っている人の役に立つ仕事をしていきたいと考えています。(500字以内)
相手の話に熱心に耳を傾けることで、隠れたニーズを引き出し、問題解決につなげられたという傾聴力アピールの模範的なエピソードです。
震災によって心理的な傷を抱えている可能性もある相手に話を聞く際に気をつけたことや、苦労した点なども踏まえると、よりレベルの高い自己PRになるでしょう。
アルバイト
私は花屋の販売員としてアルバイトをしていた際、お客様とのコミュニケーションを通じて傾聴力を発揮しました。
ある日、店内に入ってくることなく中の様子を伺っている方がいたので声をかけたところ、「知り合いに花をプレゼントしたいが、どのように頼んでいいのかわからない」というお客様がいました。そこで私は相手の方の性別や年齢、雰囲気や好きな色、用途などを細かくヒアリングし、大人の女性へのプレゼントであれば、ビビッドな色味よりは少しくすんだ色味の方が派手すぎずなおすすめなこと、渡すシチュエーションを想定し、ラウンド型の花束よりも縦型タイプの花束がボリュームを出しやすく豪華に見えることをお伝えしました。
すると、お客さまは最終的に購入してくれただけでなく、別の日にまた来店され、「前回の花束が素敵だったから」と自宅用にも花を購入してくれました。
この経験を通じて、お客様の声を大切にし、そのニーズに応じたサポートを提供することの重要性を学びました。貴社に入社できた際には、この傾聴力を活かし、常にお客様にご満足いただけるサービスを提供していきたいと考えています。(500字以内)
商品選びで悩んでいるお客様に対して丁寧なヒアリングでニーズを把握し、的確な提案によって購入と再来店という成果につなげられたエピソードです。
傾聴力だけでなく、販売に必要な商品知識の豊富さや、状況に応じた判断力・提案力もアピールできています。ESでは文字数が限られてしまうため、要点をしっかり押さえ、アピールに繋がる部分を強調できるよう意識しましょう。
インターン
私の強みは相手の要望の理解に努めることで円滑なコミュニケーションを図る傾聴力です。
大学時代に制作会社のインターンシップに参加した際、納品したパンフレットのレイアウトについてクライアントから修正を求められたことがあります。しかし、先方の指示通りに変更すると、導線がわかりにくくなり、読み手が混乱したり情報を誤解したりする可能性がありました。そこで、社員の方の助けも借りながら先方に事情を説明し、修正の意図を確認してもらいました。結果的に「確かに修正前の方が情報が整理されていて読みやすい」という結論にまとまり、最後まで丁寧に対応してくれたと感謝の言葉をいただくことができました。
このように相手の意見を否定せずに尊重しながらも、必要な意見をしっかり伝えることは、相手と良好な関係を維持しながらお互いにとってベストな結論に導く上で重要だと考えます。この傾聴力を生かし、成果物のクオリティと人間性の両面でクライアントから支持される人材になりたいです。(450字以内)
ビジネスシーンでは相手の話を聞き入れる一方ではなく、こちらの要望や意見も伝えて妥協点を探る必要があります。このエピソードではしっかりとそれができているので、傾聴力のアピールに説得力があり、「入社後も社内外の人との折衝を安心して任せられそうだ」という期待感を持ってもらいやすいでしょう。
ボランティア
私の強みは傾聴力があることです。
私は大学時代、課外活動の一環として地域の高齢者施設でのボランティアに参加しました。入居者には色々なタイプの方がおり、中にはあいさつしても返事をしてもらえない方や乱暴な言動をされる方もいて、うまく関係を築けずに悩むことがありました。しかし、何度も施設に通い、その度に簡単な声がけを欠かさずに行うようにしたところ、次第に私を見かけると自分から挨拶をしてくれたり、身の上話を打ち明けてくれたりするようになりました。
話を聞いてみると、話、もともと本人は施設への入居に同意しておらず、家族に見捨てられたように感じていることがわかりました。そこで施設のスタッフにその旨を伝え、家族の方に面会の頻度を増やしてもらえないか掛け合ってもらいました。すると、その次に入居者の方に会った際、「孫が会いにきてくれた」と嬉しそうな笑顔でお孫さんとの写真を見せてくれました。
この経験を通じて、相手を尊重し、相手の気持ちに共感することの重要性を学びました。貴社でも持ち前の傾聴力を発揮し、お客様がより幸せに過ごせるよう手助けをしていきたいと考えております。(500字以内)
このエピソードでは傾聴力を発揮して相手の真意を理解するだけでなく、その後の自分のアクションや結果までしっかりと書かれています。
傾聴力のほかに、相手との関係を構築できるまで地道に行動し続けた忍耐力や、スタッフに自分から掛け合うという主体性もうまくアピールできています。
持ち前の傾聴力を仕事にどう応用できるのか、もう少し具体的に書き加えるとよりよい例文になるでしょう。
傾聴力をアピールする時のポイント
傾聴力を他の表現に言い換える
傾聴力は人によって捉え方やイメージが異なるため、より具体的な表現に言い換えると採用担当者に伝わりやすくなります。
また別の表現で傾聴力をアピールすることで、他の学生との差別化も期待できます。
傾聴力の言い換えとしては、次のようなものがあります。
- 相手の本心を引き出す力
- 相手のニーズを正確に掴む力
- 対話を通じて問題を解決する力
- 対話を通じて信頼関係を構築する力
- 共感力
- 他者の意見を尊重する力
- ヒアリング力
いずれも傾聴力をもとにした言い換えですが、自分の体験エピソードを紹介する上で一番馴染む表現を採用すると良いでしょう。
特別な成果がない場合は日常的な体験でもOK!
「自分には特別な経験がないし、自己PRに書けるようなエピソードが思いつかない」という学生も多いかもしれません。自己PRでは「部活のコンテストで全国1位を獲得した」「アルバイト先で売上を○○%伸ばした」など、必ずしも大層なエピソードがなくてもいいのです。
大切なのはエピソードの派手さではなく、採用担当者に「入社後に活躍してくれそうだ」と思ってもらうことです。相手の話に深く耳を傾けたこと、それによって得られた結果や成果を伝えられれば、日常的な内容でも構いません。
環境が学生生活から社会人生活に移っても、その傾聴力が生かせることをアピールしましょう。
根拠となるエピソードは具体的に
採用担当者は何十枚、何百枚ものESに目を通さなければなりません。たくさんのESの中からあなたの魅力を印象付けるために、具体的なエピソードを交えて傾聴力をアピールすることを意識しましょう。
傾聴力は「責任感」「計画性」「粘り強さ」などほかの強みに比べて曖昧な印象を受けがちです。具体的な数値や成果を盛り込み、傾聴力があることの客観的な根拠を示せると説得力が増します。
数値で表せる成果がない場合は、周囲の人に評価された点を伝えられるとよいでしょう。
傾聴力と関連する強みを同時にアピール
傾聴力は、話を聞くという行為で終わっては意味がなく、そのあとで何かしらのアクションに移すことで成果をもたらす能力です。アクションにつなげるまでの過程で発揮したプラスアルファの強みをアピールできると、より魅力的な自己PRが完成します。
例えば、問題発見力や問題解決力、行動力、交渉力、調整力などは傾聴力と相性がよい能力です。どうしたらこの状況を打破できるか、問題を解決できるかなど、最終的なゴールを達成するために考えて行動したことに、もうひとつの強みを見出すヒントがあります。
傾聴力によって得た成果や結果を伝える
傾聴力によってどのような成果や結果につながったのかをしっかり伝えましょう。傾聴力=聞き上手ではありません。聞き上手とは、相手の話すことにうまく応答して、話題を引き出して気分よく話をさせる能力のことです。
一方の仕事で求められる傾聴力とは、会話から問題解決に生かせるヒントを探る能力ですので、ただの聞き上手とは異なります。話を聞いた上で自分はどのような行動を取り、その結果どうなったのか、という流れを意識して書くとよいでしょう。
自己PRに傾聴力と書く時に注意すること
企業ニーズに結びつけて書く
傾聴力は幅広い業種や職種で生かせる能力ではありますが、自分が志望する企業のニーズに結びつけて書くことが重要です。
例えば営業系の仕事なら、接客や販売のアルバイトで傾聴力を発揮したエピソードと結びつけやすいでしょう。介護や医療、教育などの業界では、学生時代の実習体験がそのまま直接仕事に関連するので、実習で傾聴力が役立ったエピソードをうまく伝えられれば採用担当者も入社後の活躍をイメージしやすくなります。
ただの聞き上手な人という印象で終わらないよう、自己PRを書いた後に企業の目線で読み返し、採用するメリットが感じられる内容になっているか確認するとよいでしょう。
ありきたりな内容は避ける
傾聴力を自己PRする学生はあなただけではないため、他の表現でうまく言い換えるなどしてオリジナリティを出せないと、採用担当者の記憶に残ることは難しいでしょう。
例えば、「悩んでいる人の話を聞いてあげたら喜んでくれた」といったエピソードに留まってしまうと、主体性や積極性のない受け身な人という印象を与えてしまう可能性があります。
他の学生もアピールしていることを念頭に、ありきたりなエピソードに終始していないか確認してください。とはいえ、奇をてらって誇張や嘘を書くのはNGです。自分の体験から能力を深掘りし、自分らしい傾聴力の表現を考えましょう。
志望企業で傾聴力が求められているかを確認する
傾聴力をアピールする場合に限らず、自己PRで強調する要素は「求める人物像」などを事前に確認したうえで決めましょう。
特に、主体性がないと思われたり、「傾聴力」は場合によってはネガティブな印象を与えることがあります。多少のリスクを背負うため確認が必須です。直接的に書かれていなくても、自分自身が業務内容を正しく把握した上でその能力が必要とされていると感じれば、その旨をESにも含めましょう。
面接での行動でアピールする
傾聴力をアピールするには、面接での言動で面接官を納得させる必要があります。面接官や他の就活生の話をしっかり聞く姿勢が大切です。軽い相づちやうなずきなどで傾聴力の高さを印象付けることができるでしょう。
特に集団面接では、「○○さんと同じように〜」などの前置きを入れることで、他の就活生の話もしっかり聞いて対応できるという印象を与えます。
ただし、人の意見に賛成するだけの主体性のない傾聴力は印象がかなり悪いです。自分の意見を述べることを最優先とし、傾聴力のアピールは余裕があったらする、くらいの心づもりでいると良いでしょう。
受け身な印象を残さないように注意する
「傾聴力」はどうしても受け身な印象を与えやすく、「聞き上手」で済まされてしまうことがあります。自分の意見を主張した上で人の意見も柔軟に聞き入れることができること、人に気持ちよく話をさせられることなどをアピールしましょう。
そのためにも、自己PRの中に書くエピソードに「人の話を聞いた結果どのような行動を起こしたのか」を含むようにしましょう。
言い換えを効果的に使って主体性を伝える自己PRをつくろう
マイナスな印象を与えることもある「傾聴力」を効果的にアピールするには、言い換えを用いて様々な場面で活用できる能力であること、人の意見を聞いて賛成するだけでなく自分の意見もしっかり主張できることを強調しましょう。
傾聴力はどの業種・職種でも活かすことができ、部活やアルバイトなど大学生の多くが経験する様々な出来事をエピソードとして使うことができます。
本記事で紹介した書き方のポイントと注意点を参考に、傾聴力を明確に言語化した自己PRを完成させましょう。